アート哲学・糸崎公朗blog3.2

写真家・美術家の糸崎公朗がアートと哲学について語ります

抽象性と具象性

真実に近づくほど、自分が見て聞いて体験する世界は変化してゆきます。
なぜなら我々は基本的には嘘の世界に生きているからです。
究極の真実に到達するのが原理的に不可能であれば、重要なのは変化そのものです。

客観学的世界についての知識は、生活世界の明証生に「基づいている」#フッサール

どのように高度に抽象的な理論も、実際の効果と結び付いています。
抽象性と具体性の、二つの両極的に断絶したものが、一つに結び付いているのです。

抽象的理論と具体的事象は密接に結び付いています。
具体的事象を具体的なままに捉えるだけでは、例えば原子力発電所は作れません。
具体的な事象から操作可能な要素を抽出したのが、抽象的理論です。
具体物から抽出した抽象的理論を、具体的に作用させると、原子力発電所が具現化し作動します。

具体物を具体物として捉える視点と、具他物から抽象性を抽出した視点とがあります。
この二つにはどのような違いがあり、そもそも二つは明確に峻別可能なのでしょうか?

抽象性の抽出は、複数の具体物の比較によってなされます。
比較を成立させるものは記憶です。
記憶力がない人は、その時々の具体的世界の中を生きます。
具体的世界を具体的に生きる人にとって、何事かを新たに認識しこれを記憶する必要はありません。

人が具体的世界に生きるとはどう言うことでしょうか?
抽象的思考が苦手な人は、果たして具体的な世界に生きていると言えるのでしょうか?
抽象的思考が苦手な人は、実のところ要素が限られ、変更出来ずに固定された抽象性に縛られているのではないでしょうか?

抽象的思考が苦手な人は、その人固有の抽象的思考に縛られているのです。
抽象的思考が固定されているために、それ以上の抽象的思考が出来ないのです。
しかし実際にそのような人々は、極度に抽象的な思考をし、多くの場面で現実を取り逃がしています。平たく言えば先入観に囚われることです。