アート哲学・糸崎公朗blog3.2

写真家・美術家の糸崎公朗がアートと哲学について語ります

想起と痛み

私は自分が芸術家であったことを思い出さなければなりません。そういえば私は子供の頃から、自分が芸術家であったことを思い出しかけてはまた忘れる、ということを繰り返してきました。それが芸術家を目指したり、諦めたりする、という事です。芸術家の行き詰まりも、つまりは想起と忘却の問題です。

人はすべての事を知りながら、すべてを忘れて産まれ、ごくわずかな事だけを思い出し、全てを思い出せないまま死んでゆくのです。ですから人は本来全知全能でし、しかし実際には無智無能なのです。

私もそうでしたが、多くの人は想起する事に消極的です。想起できない事を想起するには努力と痛みが伴い、また想起したくない事ばかりを人間は忘却しているからです。例えば、現在の我々の平和は、何によってもたらされたのか?それを思い出すのは実に嫌な事なのです。