アート哲学・糸崎公朗blog3.2

写真家・美術家の糸崎公朗がアートと哲学について語ります

意志と直観

経験の蓄積とは何か?純粋経験の立場から、または現象学的立場から、過去の実在は証明することができず、従って本当に自分があることを繰り返し経験した事実は証明できないのですが、現在意識としての「経験の蓄積」は現象として疑いもなく存在するのです。

この疑いなく存在する「経験の蓄積」という現在意識によって、人は同じく現在意識としての「未来」を意志することができるのです。

「経験の蓄積」とはそれ自体が一つ意志です。意志のないところに経験の蓄積はありません。例えば、美味しいものに取り立てて興味がない人は、毎日食事をしていてもその経験を蓄積するという意志がなく、従っていつまで経っても味音痴のままでいるのです。

美味しいものを「美味しい」と認識するのは直観的であって、理屈ではないのです。「美味しい」と感じたものを理屈によって分析するのは、例えばその味を自分の手で再現してみようとする時です。その場合の理屈とは美味しい味を生み出す「手順」であって、「美味しい味」そのものではないのです。

直観力のない人は、そのものを生み出す手順と、そのものの良さとを、混同するのです。直観の内実は分析不可能で、外的な要因のみが分析可能なのです。