人間、他人のことをとやかくいうのは簡単だが、自己反省というのはなかなかに難しい。何故なら他人は自分ではないから客観的に見ることができるが、自分は自分なのでそれができないのである。
だから自己反省をするには、自分をあたかも他人のように突き放して、客観的に見なければならない。それをするには自分が一つではあってはならず、自分を二つ以上に分裂させなければならない。
自分のことより他人のことを言う方が簡単なので、多くの学者は他人の研究をし、自分の外部世界を研究する。ところが古代ギリシアのソクラテスはそれに異をとなえ、他人や外部世界に向ける視点を自分自身にも向けなければ、学問として不十分であるとして「無知の知」を説いた。