アート哲学・糸崎公朗blog3.2

写真家・美術家の糸崎公朗がアートと哲学について語ります

城壁と自由

芸術に自由はない。

一般の人びとがあこがれを以て「芸術に自由がある」といった場合の「自由」とは、荒野に城壁で囲った文明の外部へと脱出するような自由なのである。しかしそもそも、人間は荒野から脱出するために、荒野の一部を城壁で囲ったのである。その城壁の外部にいかなる自由があるのか?

自由には、文明人の自由と、原始人の自由との二種類がある。そして現代日本において、多くの人が望んでいるのは原始人の自由なのである。芸術によって自由が得られる、という場合の自由とは、原始人の自由を指している。

オルテガの論に従うならば、世界には荒野と城壁の内部の二種類しかない。城壁の内部の人間が憧れる自由とは、城壁の外部である荒野への脱出である。本来、人は荒野から城壁の内部へと脱出したにもかかわらず、時が経つとその状況を「閉じ込められている」と柵越し、荒野への脱出に憧れるのである。